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AIエージェントの作り方|合意する5つの仕様

株式会社Atsumell|10分で読めます
AIエージェントの作り方を5つの仕様成果物で示した図

AIエージェントの試作画面を見た顧客から、「これなら来月には本番へ入れられますか」と聞かれる。そこでSIerが言葉に詰まる。

ところが、社内で毎日使える状態にするまでが長い。顧客を取り違えたらどうするか。情報が足りないときに止まれるか。外部送信の前に誰が確認するか。失敗後にどこから再開するか。デモでは隠れていた論点が一気に出てくる。

モデルは動いている。だが、見積条件、責任分界、受入基準、障害時の担当が決まっていない。コードがあるのに、契約と検収へ渡せる仕様がない状態だ。

AIエージェントの作り方は、発注者とSIerが業務境界、ツール入出力、承認シーケンス、受入基準、運用引継ぎの5成果物に合意するところから始まる。ここでは実装手順の紹介ではなく、見積・契約・検収へ渡せる仕様の作り方を整理する。

AIエージェントの作り方は、普通の自動化と分けるところから

すべての業務にAIエージェントが必要なわけではない。

入力と処理が固定でき、毎回同じ答えを返せるなら、通常のプログラムやRPAの方が安定する。AIエージェントが向くのは、文書や会話のような非構造データを読み、状況に応じて次の行動を選ぶ業務だ。

OpenAIの実践ガイドでは、エージェントを「利用者に代わって、一定の自律性を持ってタスクを完了するシステム」と位置づけている。LLMが文章を返すだけではなく、業務の進行を判断し、必要な道具を選び、完了や中断を決める点が違いになる。

候補業務は、次の3条件で見るとよい。

条件確認する質問
判断がある状況ごとに次の処理が変わるか問い合わせ内容で担当部署を変える
非構造データが多い文書や会話を読み取る必要があるか議事録から課題と次の行動を抽出する
道具を使う検索、更新、通知などを組み合わせるかCRMを確認し、メール下書きを作る

判断や非構造データがほとんどなく、処理を固定できる部分は通常のプログラムへ残す。エージェントに任せる範囲を狭くすると、見積と責任の境界も明確になる。

仕様1:業務境界定義書で開始と完了を合意する

最初の失敗は「営業を自動化する」「バックオフィスを任せる」のように、範囲を大きく取りすぎることだ。これでは入力も完了条件も決まらない。

1体目は、開始と終了を一文で書ける単位に切る。

たとえば営業支援なら、「商談議事録を受け取り、CRM更新案とお礼メール下書きを作り、担当者の確認待ちにする」と書ける。ここには開始条件、使う情報、成果物、終了状態が入っている。

対象業務を切るときは、次の5項目を業務境界定義書へまとめる。

  1. トリガー:何をきっかけに始めるか
  2. 入力:どの情報を読むか
  3. 判断:何を分類・照合するか
  4. 出力:何を作るか
  5. 完了:どの状態になれば終わりか

役割分担は次の形にする。

担当決めること
発注者業務目的、対象と対象外、完了状態、業務責任者
SIer入出力をシステム境界へ変換し、未確定事項を質問票にする
共同代表シナリオを通し、開始と完了の認識をそろえる

この段階ではモデル名を決めなくてよい。先に業務の合格状態を固定する。AIエージェントの導入を小さく始める方法でも触れた通り、対象を狭くすると、失敗の原因を切り分けやすい。

仕様2:ツール入出力仕様でデータ契約を決める

AIエージェントは、道具を持つと仕事ができる。一方で、道具の説明が曖昧だと、もっともらしい引数で誤実行する。

OpenAI Agents SDKの公式文書では、エージェントを指示、道具、ハンドオフ、ガードレール、構造化出力などで構成する。実装で重要なのは、道具の数より一つひとつの入出力契約だ。

各道具には、最低限次を持たせる。これがツール入出力仕様になる。

項目書く内容
目的何のために使うか
入力必須項目、型、許容値
出力成功時に返す構造
失敗権限不足、対象なし、複数候補などの分類
再試行再実行してよい条件と回数
副作用読み取り、下書き、更新、送信の別

たとえば会社検索の道具が複数候補を返したとき、AIに一社を推測させない。「候補が一意でない」と構造化して返し、人間へ確認を求める。これだけで誤更新の危険はかなり下がる。

データも同じだ。CRMの会社名、メールドメイン、Driveの顧客フォルダが食い違う場合、どれを正とするかを決める。発注者は正本と例外時の業務判断を示し、SIerはそれをスキーマ、エラーコード、再試行条件へ変換する。共同レビューでは、複数候補、対象なし、権限不足の返却例まで確認する。

仕様3:承認シーケンスで権限と停止を図にする

「危ない操作はしないで」と指示に書くだけでは、権限管理にならない。安全境界は、AIの返答ではなく実行基盤で強制する。

権限は4段階に分けると扱いやすい。

  • 読む:文書、メール、CRMを参照する
  • 作る:要約、更新案、下書きを作る
  • 更新する:社内データを確定変更する
  • 外へ出す:メール送信、公開、契約、課金を行う

初期範囲を「読む・作る」までに置く案なら、更新や外部送信は人間の承認後に限定する。社内AIエージェントの権限設計で整理したように、Read、Write、Executeを一つの権限にまとめない。

停止条件も先に決める。

  • 必須入力がない
  • 対象候補が複数ある
  • 権限が足りない
  • 金額や宛先に矛盾がある
  • 再試行回数を超えた
  • 外部副作用の承認がない

停止条件は、文章だけでなく承認シーケンス図へ置く。発注者は金額、宛先、契約、顧客影響など承認が必要な業務条件を決める。SIerは認証主体、権限チェック、承認待ち状態、タイムアウト、再開処理を図にする。共同で「誰が、何を見て、どの操作を承認するか」を確認する。

止まった後の引き継ぎ先と再開条件も必要だ。「何が足りないか」「誰が判断するか」「何を受け取れば再開するか」を成果物に残す。

仕様4:異常系を含む受入基準を作る

デモが一度成功しても、本番投入の根拠にはならない。AIエージェントは入力によって判断が変わるため、同じ評価セットを繰り返し実行できる形にする。

評価ケースには、正常系だけでなく業務リスクに応じた異常系を十分に入れる。

種類ケース例合格条件
正常会社と担当者が一意に一致する正しい更新案を作る
情報不足宛先メールがない送信せず不足項目を示す
曖昧同名会社が複数ある推測せず確認待ちにする
権限不足更新権限がない読み取り結果だけを返す
外部副作用メール送信が必要承認前に止まる
復旧APIが一時失敗する上限内で再試行し、履歴を残す

測る指標も、回答の正しさだけでは足りない。対象の取り違え件数、止まるべき場面で止まれた割合、人間の修正項目数、完了時間、実行コストを追う。

OpenAI Agents SDKのクイックスタートは、単体エージェントから道具、ハンドオフ、トレース確認へ進む流れを示している。トレースは開発者向けの飾りではない。どの入力で、どの道具を呼び、どこで判断を誤ったかを評価へ戻す材料になる。

受入基準では、発注者が許容できない誤りと業務影響を決める。SIerは入力データ、期待結果、停止条件、証跡をテストケースへ変換する。共同で検収用データを確定し、誰が合否を判定するかを明記する。

評価表は検収後も残す。指示、モデル、道具、参照データを変えたら同じケースを再実行する。これが回帰テストになる。

仕様5:運用引継書で変更と復旧の責任を分ける

AIエージェントは、公開した日が完成日ではない。業務ルールが変わり、APIが変わり、参照文書が増え、モデルも更新される。

運用開始前に、次の担当を決める。

運用項目主な担当残すもの
業務ルール変更業務責任者変更理由と適用日
道具・接続変更開発担当API仕様とテスト結果
権限変更管理者承認者と変更履歴
品質監視業務・開発の共同失敗分類と評価指標
障害復旧運用担当再試行、切り戻し、再開条件

Microsoft Agent FrameworkのGo版入門は、2026年7月時点でパブリックプレビューだが、最初のエージェント、道具、会話状態、記憶、ワークフロー、ホスティングを段階的に扱う。採用技術にかかわらず、コードが動いた後に状態と実行基盤の設計が必要になる。

最低限、実行ID、依頼者、参照データ、呼び出した道具、結果、停止理由、成果物、承認履歴を追えるようにする。失敗を「AIが間違えた」で終わらせず、入力、道具、権限、指示、モデルのどこに原因があったか分ける。

運用の成否は、自動化率だけでは決まらない。安全に止まり、人間が短時間で直し、同じ失敗を次の版で減らせることが重要だ。

5つの仕様を見積・契約・検収へつなぐ

AIエージェントの開発着手前に、次の5点をそろえる。

  1. 業務境界定義書:開始、入力、判断、出力、完了
  2. ツール入出力仕様:型、失敗分類、副作用、再試行
  3. 承認シーケンス:権限、承認者、停止、再開
  4. 異常系受入基準:テストデータ、期待結果、合否
  5. 運用引継書:変更、監視、復旧、問い合わせ先

業務境界とツール仕様は見積範囲へ、承認シーケンスは責任分界とセキュリティ条件へ、受入基準は検収条項へ、運用引継書は保守範囲へ接続する。画面イメージやモデル名だけで見積もるより、追加費用が発生する条件も説明しやすい。AIエージェントの開発現場で見えた条件を検討するときも、成果物単位で工数を分けられる。

Kakusillで5つの仕様を構造化すれば、要求ID、ツール、承認条件、テスト、変更履歴を同じ根拠で追える。人間の合意資料で終わらず、AIや開発者が参照できる仕様へ渡せる点が重要だ。

株式会社Atsumellでは、業務フローの可視化から、要件、権限、評価、運用を含むAIエージェントの設計・構築を支援している。AIエージェントをデモで終わらせず、日々の業務へ組み込みたい場合は、お問い合わせから相談してほしい。

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